Environment 環境

天然水産資源の持続的な利用

リード文

世界の水産資源は枯渇化が進んでおり、2024年の国連食糧農業機関(FAO)の報告書によると、世界の海洋水産資源は資源安定状態が11.8%、満限利用の状態が50.5%、過剰漁獲状態が37.7%とされています。水産資源の状態は、海の恵みを受けて事業を営むニッスイグループにとって、中長期的な事業のリスクやチャンスに関わる非常に重要なものであると考えています。
そのため、調達品の資源状況の把握と、対応すべき課題の特定を目的に、ニッスイグループ全体で調達した水産資源状態について調査を行っているほか、グループ全体で持続的な水産資源の利用のための取り組みを推進しています。

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第3回ニッスイグループ取り扱い水産物の資源状態調査

ニッスイおよびグループ会社(国内16社、海外20社)において、2022年に自社グループ漁業および外部から調達した天然水産物・水産物加工品の実績をもとに、資源状態調査を行いました。調達総量は原魚換算重量で約276万トンでした。
2019年の前回調査と同様に、魚種・漁獲海域・原産国・重量(原魚換算)・漁法・漁具を調査しました。また、調査データの分析はSFP(注)(Sustainable Fisheries Partnership)へ委託し、第三者性を確保しました。

(注)SFP:持続可能な漁業のためのパートナーシップ、サプライチェーンで漁業改善を推進する米国NGO。

第3回水産資源調査結果の詳細はこちら(861KB)

資源状態調査の方法と結果

実施年 第1回(2017) 第2回(2020) 第3回(2023)
対象年 2016 2019 2022
対象社数 38社
(ニッスイ、国内21、海外16)
41社
(ニッスイ、 国内20、海外20)
37社
(ニッスイ、 国内16、海外20)
調査
対象外
海藻および魚油、配合飼料[魚粉] 海藻 海藻
分析・評価 自社 第三者委託(SFP) 第三者委託(SFP)
資源データ
評価方法
FAO (注1) Fisheries and Aquaculture Technical Paper No.569. Rome, FAO. 2011.
SFP Fish Source(注2)(Score4)
SFP Fish Source (Score1-5)による総合評価
⇒ ODP(Ocean Disclosure Project)(注3)で採用の評価手法
SFP Fish Source (Score1-5)による総合評価
⇒ ODP(Ocean Disclosure Project)(注3)で採用の評価手法

(注1)FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations(国連食糧農業機関)。
(注2)FishSource:SFPが2007年に開設した国際的な資源評価データベース。各国行政機関の水産資源情報等をもとに開発された。
(注3)ODP:SFPが2015年に設立したシーフードの調達を自主的に開示するためのオンライン報告プラットフォーム。

調達した天然水産物および水産物加工品の原産地(2022年)

【図版】資源調査の方法と結果

調査の結果、2022年に調達した天然水産物と水産物加工品の原産地ごとの重量は上図の通り、日本が最も多く、次いで北米、南米となることがわかりました。

魚種カテゴリー別 取扱重量 (FAO-ISSCAAP分類による魚種群)

【図版】魚種カテゴリー別 取り扱い重量 (FAO-ISSCAAP分類による魚種群)

取り扱い魚種は、タラ・スケソウ・メルルーサなどの白身魚類が最も多く、魚粉や魚油の原料として使用されているニシン・イワシ類、サバ・アジ・ブリなどの浮魚類が続きます。

資源管理状態の評価結果

第三者である外部機関SFP(Sustainable Fisheries Partnership)に送り資源状態の評価を行いました。
同機関が管理する国際的な資源評価データベース「FishSource」(注)では資源状態、漁業管理体制など下記5項目を各10点満点でスコア化しており、この評点をもとにODP(Ocean Disclosure Project)が定める方法により4段階で資源管理状態を判定しました。

(注)FishSource:各国行政機関の水産資源情報等をもとに開発された国際的な資源評価データベース。

●FishSource 5つのスコア

スコア1:管理戦略の予防原則に対する準拠性
スコア2:管理者の科学的根拠に対する準拠性
スコア3:漁業者のコンプライアンス
スコア4:現在における資源の健全性
スコア5:将来における資源の健全性

2022年調達品の資源管理状態

【図版】

ODPによる評価手法(FishSourceスコア1~5による判定)

  • Well Managed(優れた管理):
    すべてのスコアが8以上
  • Managed(管理):
    すべてのスコアが6以上
  • Needs Improvement(要改善):
    0以上6未満のスコアが1つ以上ある
  • Profile not yet Complete(プロフィール未登録):
    1つ以上、点数がついていない項目がある

SFPによる分析の結果、調達品の約75%が「優れた管理」もしくは「管理」されている状態であることがわかりました。
一方で、「要改善」状態の資源が8%、「プロフィール未登録(スコアが欠損しており判定できない資源)」が約17%ありました。

持続可能な水産物利用を推進する第三者プログラム

第2回(2019年)の資源状態調査で、調達した水産物に絶滅危惧種に該当する魚種が含まれることが判明したため、「ニッスイグループ絶滅危惧種(水産物)の調達方針」に基づき、MSCをはじめとした認証漁業品の調達を推進しました。その結果、2022年に取り扱ったMSC認証魚種数は2019年と比較して17魚種増加し、調達重量も約4%増加しました。

MSC認証魚種の取り扱い実績(2022年)

【図版】調達総量に占める比率

課題と今後の対応策

今回の調査結果から、取り扱い水産物のうち以下の4点を特に優先的に対応すべき課題であると認識し、その対応策について議論を進めていきます。

課題

  • 外部調達かつ調達量の多い魚種
    自社グループ漁業は持続性が確保できている一方で、外部調達には対応が必要な魚種が多い
  • 資源状態の把握が困難な魚種
    「要改善」、「プロフィール未登録」の魚種
  • 加工された状態で調達する魚種
    上記のうち、特に魚油・魚粉、すり身などの加工に使用される魚種
  • 人権リスクへの対応
    資源状態の把握は進んでいるものの、人権リスクへの対応が必要

今後の対応策

  • 資源状態の把握が困難な魚種(特に魚粉・魚油・すり身の加工原料となる魚種)に対し、ラウンドテーブルへの参加やFIPの支援など、優先して対応する。
  • 漁獲情報の収集が困難な品目の資源特定に取り組み、サプライヤーとの協働によりトレーサビリティの確保に取り組む。
  • 調達資源について、人権侵害リスクを把握するための評価方法を検討する。

継続した調査の実施

ニッスイでは、グループ全体による水産物調達が、環境に与える影響を把握するため水産物の資源状態調査を実施しています。 これまでの結果から、現時点では、いくつか課題は有するものの、ニッスイグループの調達は海洋環境や水産資源に対して深刻な影響を与えていないと判断しています。
一方、水産物需要の高まり、気候変動に伴う海水温上昇など水産資源を取り巻く環境は常に変化しています。この先、将来にわたってマーケットの需要に応えるためには、定期的に調査を行い、常に適切な対応策を取ることが重要だと考えています。

第1回取り扱い水産物の資源状態調査の結果はこちら(1.04MB)

第2回取り扱い水産物の資源状態調査の結果はこちら

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絶滅危惧種への対応

ニッスイグループ絶滅危惧種(水産物)の調達方針

ニッスイグループは、生物多様性に関わる条約や法令の遵守とともに、自然との共生社会の実現に貢献します。特に絶滅の危険度の高い水産物に関しては、2030年までに資源回復への科学的かつ具体的な対策が取られない場合には、調達を停止します。

資源回復への科学的かつ具体的な対策
  1. 1.MSC等の認証漁業品(GSSI認証相当)または、FIP(注1)漁業品
  2. 2.RFMO等の国際的な資源管理団体による科学的な漁業管理
  3. 3.ODP(注2)が定める基準で「Managed」以上の評価
  4. 4.その他、上記1-3の実現に向けて、具体的な施策を実施している場合

(注1)FIP:漁業者、企業、流通、NGOなど関係者が協力し、漁業の持続可能性の向上に取り組む漁業改善プロジェクト。
(注2)ODP:Ocean Disclosure Project。SFP(Sustainable Fisheries Partnership)が2015年に設立したシーフードの調達を自主的に開示するためのオンライン報告プラットフォーム。

2022年時点の分類に基づく絶滅危惧I類と、ニッスイグループの対応策

分類 魚種(英) 学名 和名 重量
(トン)
ニッスイグループの現在の対応策
CR
0.9トン
European eel Anguilla anguilla ヨーロッパウナギ 0.9 販売先の拡大を停止している。
EN
166トン
Winter skate Leucoraja ocellata ガンギエイ 103 MSC認証品の調達を推進している。また、販売先の拡大を停止している。
Sea cucumber Apostichopus japonicus Isurus ナマコ 38 新たに水産流通適正化法(日本)による管理が開始されているため、今後も管理枠内での調達が可能と判断。
Southern bluefin tuna Thunnus maccoyii ミナミマグロ 20 適切にRFMO(地域漁業管理機関)が管理しているため、今後も管理枠内での調達が可能と判断。
Japanese eel Anguilla japonica ニホンウナギ 5 ニッスイグループ中1社のみ取り扱いがある。水産流通適正化法の対象魚種に今後、ウナギの稚魚(シラス)が加わる予定であり、その動向を踏まえて、対応策を検討する。
New zealand longfin eel Anguilla dieffenbachii ニュージーランドオオウナギ 0.3 販売先の拡大を停止している。
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ラウンドテーブルへの参画

Global Roundtable on Marine Ingredientsに参画

2022年より、持続可能な水産物の普及に向けて取り組むラウンドテーブルである「Global Roundtable on Marine Ingredients」に参画しています。これは、第2回ニッスイグループ取り扱い水産物の資源状態調査(2019年)の結果で、資源状態の把握が困難な「Not Scored」、あるいは資源状態の改善が必要な「Needs Improvement」と判定された魚種への対応のひとつとなります。今後、このラウンドテーブルの活動を通じて具体的な対策の検討を進めます。

外部イニシアティブへの参加​

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WWFジャパン「太平洋クロマグロ保全の誓い」への参画

ニッスイグループは、WWFジャパンの提起による「太平洋クロマグロ保全の誓い」への参画により、これに賛同する複数の日本企業とともに、国際漁業資源である太平洋クロマグロの資源管理に関してさらなる国際合意を進めることを望む意思を表明します。

詳しくはこちら

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RFVS認証

RFVS認証の取得

ニッスイの海外グループ会社であるオーストラリアン・ロングライン社(オーストラリア)は、主に南氷洋でメロ漁業(MSC認証対象)を営んでいます。2021年1月、同社が所有するAntarctic Discovery号が、世界に先駆けて初めてRFVS(Responsible Fishing Vessel Standard)認証を取得しました。RFVS認証は漁船に関する認証で、非営利組織であるGSA(Global Seafood Alliance)によってグローバルの規模で運営されています。漁船の管理や漁獲のトレーサビリティに加えて、船上で働く従業員の安全やウェルビーイングといった人権の観点からも監査がなされます。本認証取得により、同社が船内の乗組員に対して高水準の注意と安全を順守しており、奴隷労働や劣悪な生活環境といった違法な慣行に関与していないことを世間に示すことができました。同社は2021年2月、新船Antarctic Aurora号においてもRFVSを取得しています。

RFVS認証の推奨

同じくニッスイの海外グループ会社であるフラットフィッシュ社(英国)は、2019-2020年に認証の技術ワーキンググループの一員として、認証の査読などを通し、このRFVSに貢献しました。フラットフィッシュ社はこの認証スキームに対して、2006年の立ち上げ当初だけでなく、その後2016年に再開された際にも賛同し、実現に向けて継続的な支援を行いました。また、「船舶の管理と安全システム」「乗組員の権利、安全、福利厚生」といった二つの柱からなる、RFVSの漁船の乗組員の福祉に関する基準を非常に重要であると考え、自社のサプライチェーン全体で当認証を採用することを推奨しています。

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ニューイングランド水族館とのパートナーシップ

ニッスイの海外グループ会社であるゴートンズ社(米国)は、ニューイングランド水族館(米国マサチューセッツ州ボストン、以下NEAq)と海洋保護、持続可能な水産資源の確保ためパートナーシップを結んでいます。ゴートンズ社が2008年に自社のシーフード製品についての科学的な持続可能性評価をNEAqに依頼したことに始まり、このパートナーシップは2023年12月で15年を迎えました。

【写真】NEAq

NEAqはモントレーベイ水族館とならび、世界的な水産資源研究の知見を有しており、 漁業や養殖事業の動向、飼料、品種改良など、持続可能な漁業の取り組みを進めるうえで科学的で有意義なアドバイスやサポートを提供してくれています。
また、ゴートンズ社ではSustainability Action Plan (持続可能性に向けた行動計画)を策定し 、KPIを設定して進捗管理を行っており、NEAqとの意見交換を行いながら計画を進めています。

これまで築いてきたNEAqとの強い信頼をもとに、これからもゴートンズ社は資源の持続的な利用、海洋環境の保全に積極的に取り組みます。

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新たな漁法(PSH)の開発(シーロード社)

水産資源の持続可能性を高めるためには、漁業の方法(漁法)にも工夫が必要になってきます。海の環境を悪化させてしまうような漁法や、目的とする魚以外の生物を獲ってしまう混獲の問題が指摘されており、海の生態系を守り環境を悪化させないためにも、より生物や環境にダメージの少ない漁法を開発する必要があります。

ニッスイの海外グループ会社であるシーロード社(ニュージーランド)は、国内の大手水産会社であるAotearoa Fisheries社およびSanford社、そして農業および水産業の持続可能性を研究するPlant & Food Research社とパートナーシップを組み、混獲を減らし、本来目的とする魚を生きたまま捕獲できる「PSH漁法システム」を開発することに成功しました。
PSH漁法システムでは、柔軟なポリ塩化ビニール製で海水が流入すると筒状に広がる漁具を使用するため、魚が泳いでいる状態で生きたまま水揚げすることが可能です。小型魚種やサイズの小さい魚は、漁具の特定のサイズの穴を通って逃げることができます。

【写真】PSH漁法システム

科学的試験では、PSH漁法で捕獲した鯛は水深20メートル以内での生存率が100%であるという結果が出ています。水深が深くなるにつれ生存率は下がる傾向にありますが、PSH漁法では一般的な漁法よりも高い生存率で魚を捕獲できることが明らかになりました。
このことから、深海生物の研究や、水深の深い場所に生息する海洋生物の捕獲にもPSH漁法は有効と考えられています。

前述の4社は、2005年のプロジェクト立ち上げからおおよそ10年もの間、調査研究などの試行錯誤を繰り返し、2016年ついにPSH漁法の商業化(実用化)を実現させました。シーロード社は現在、PSH漁業を広め、持続可能な漁業の普及に寄与すべく取り組みを行っています。

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