生物多様性の保全は重要な経営課題であると認識し、2023年9月にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)フォーラムに加盟し、2023年12月にTNFD Adopterに登録しました。
自然資本・生物多様性に関連する取り組みは、「水産資源持続部会」、「サステナブル調達部会」、「海洋環境部会」、「プラスチック部会」、「環境部会」、「人権部会」の6部会を中心に対応しており、各部会では方針や戦略の立案・実行を行い、サステナビリティ委員会に報告しています。年6回開催されるサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しています。また、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。
(注)リデュース・リユース・リサイクル+リニューアブル
漁業と養殖における自然への依存と影響の関係を整理するため、LEAPアプローチ(注1)に沿って「依存と影響」の診断と「リスクと機会」の評価を行い、以下のように整理しました。なお、今回の評価では、バリューチェーン最上流における自然との接点である「漁業」および「養殖」を対象とし、外部ツール「ENCORE(注2)」を使用した一次評価を行った上で、ニッスイグループの操業実態に合わせた二次評価(定性評価)を行いました。その結果、漁業では海域や水産資源などの海洋生態系サービスに大きく依存し、漁獲によって水産資源量や生物種に影響を与えていることが分かりました。養殖では、陸域・水域・海域の利用に加え、水温や水質などの生態系調整サービスに大きく依存している一方で、給餌による水質悪化など、養殖場水域の汚染により自然へ影響を与えていることが分かっています。
(注1)LEAPアプローチ:TNFDが開発した、自然関連のリスクと機会を評価するためのガイダンス。分析プロセスであるLocate、Evaluate、Assess、Prepareの頭文字をとったもの。
(注2)ENCORE:ビジネスセクターと生産プロセスごとの自然資本への依存と影響を評価するツール。
リスク /機会 |
分類 | 想定される主なリスクと機会 | 事業インパクト | 主な対応策 | |
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漁業 | 物理 リスク |
慢性 | 水産資源の枯渇化 |
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急性・慢性 | 海水温の変化に伴う資源状態・漁場・種の変化 |
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移行 リスク |
規制 | 漁業規制の強化 |
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規制 | 温室効果ガス排出規制の強化 |
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市場 | 消費者の購買行動の変化 |
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市場 | 小売・外食業からの要請拡大(トレーサビリティ・認証など) |
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評判 | 絶滅危惧種の調達による評判の低下 |
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評判 | 海鳥や哺乳類の偶発的捕獲による評判の低下 |
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評判 | 海洋資源や環境への負の影響発生に伴う評判の低下 |
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評判 | 対応が不十分な場合の投資家・金融機関からの評判の低下 |
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技術 | 漁船の温室効果ガス排出低減対応の遅れ |
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機会 | 製品・サービス / 天然資源の持続可能な利用 | 水産物の持続的調達によるサプライチェーンの安定化 |
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評判 / 生態系の保全 | 海鳥や哺乳類の偶発的捕獲防止による悪評の防止、生態系の保全 |
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資本の流れおよび資金 | 投資家・金融機関からの評判向上、資金調達の多様化 |
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評判資本 | 消費者の購買行動の変化(持続可能性に配慮した製品に対する需要の増加) |
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リスク /機会 |
分類 | 想定される主なリスクと機会 | 事業インパクト | 主な対応策 | |
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養殖 | 物理 リスク |
急性 | 風水害の激甚化による事業停止・管理コスト増加 |
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急性 | 魚病の蔓延 |
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急性・慢性 | 養殖場周辺の水質の悪化 |
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急性・慢性 | 渇水による操業停止 |
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慢性 | 海洋環境の変化による水産物の調達リスク |
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慢性 | 気候変動による海水温の上昇 |
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移行 リスク |
規制 | 養殖における環境規制の強化 |
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規制 | 温室効果ガス排出規制の強化 |
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規制 | 天然水産資源管理の強化に伴う飼料への影響 |
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市場 | 消費者の購買行動の変化 |
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市場 | 小売・外食業からの要請拡大(トレーサビリティ・認証など) |
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評判 | 環境への負の影響発生に伴うステークホルダーからの評判の低下 |
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評判 | 持続性対応が不十分な場合の投資家・金融機関からの評判の低下 |
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技術 | 低環境負荷型養殖技術の開発の遅れ |
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機会 | 製品・サービス / 生態系の保全 | 完全養殖技術の確立による天然資源への依存低減 |
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製品・サービス / 生態系の保全 | 健康管理による養殖魚の健康増進、周辺海域への魚病拡大防止 |
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製品・サービス / 生態系の保全 | 抗菌剤に頼らない養殖方法の研究開発による海洋環境負荷の低減 |
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製品・サービス / 生態系の保全 | 陸上養殖技術の開発による海洋環境への負荷の低減 |
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製品・サービス | 陸上養殖技術開発による気候変動耐性の確保 |
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製品・サービス / 生態系の保全 | スマート養殖による環境負荷の低減、動物福祉向上 |
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マーケット / 生態系の保全 | 作業船の脱炭素化による環境負荷の低減 |
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資本の流れおよび資金 | 投資家・金融機関からの評判向上、資金調達の多様化 |
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評判資本 | 消費者の購買行動の変化(持続可能性に配慮した製品に対する需要増加) |
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ニッスイグループでは、中長期的な経営戦略を見据えた重要リスクを特定するため、マテリアリティをリスクマネジメントの起点としています。2023年度に実施したマテリアリティの見直しに伴い、重要リスクについても見直しを行いました。特定した自然資本・生物多様性に関わる重要リスクは以下の通りです。なお、マテリアリティの見直しに際しては、TCFDやTNFDの取り組みにおける「気候関連・自然関連のリスクと機会」の検討結果を反映させています。
気候変動に関連するリスク・機会の分析と対応策については、常務執行役員(CFO)がオーナーを務める部門横断型の「TCFD対応プロジェクト」が環境部会と連動して検討しています。また、バリューチェーン上の自然資本関連のリスク・機会の分析と対応策については、水産資源持続部会、海洋環境部会、サステナブル調達部会、人権部会において検討し、サステナビリティ委員会での議論の後に取締役会に報告され、取締役会から受けた意見や助言を施策に反映しています。
重要リスク | 重要リスク管理組織 | ||
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気候変動への対応に関するリスク |
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→ | サステナビリティ委員会 |
生物多様性への対応に関するリスク |
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サプライチェーンの環境・人権への対応に関するリスク |
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ニッスイグループは、水産資源の持続性確保や海洋環境の保全を経営課題と位置付けて取り組んでおり、以下の指標と目標を用いて自然関連の依存・影響、リスク・機会を管理しています。
対象 | 指標 | 目標 | 測定・判定方法 |
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漁業・養殖 | 持続可能な調達比率 | 水産物の持続可能な調達比率100% | ODP(注1)による評価手法(FishSourceスコア1~5による判定)で、「Well Managed(優れた管理)すべてのスコアが8以上」、「Managed(管理)同6以上」を持続可能と位置づけ |
絶滅危惧種(水産物)の調達 | 特に絶滅の危険度の高い水産物に関しては、2030年までに資源回復への科学的かつ具体的な対策が取られない場合には、調達を停止 | 資源回復への科学的かつ具体的な対策
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CO2排出量 | 30%削減 | CO2排出実績(対象:Scope 1,2 基準年度:2018年度) | |
養殖 | ナイロンカバー発泡スチロール製養殖フロートの切り替え実績 | 2024年度: 100%切り替え完了 | 海洋へのプラスチック流出リスクの低いフロートへ100%切り替え |
養殖魚の逃亡 | 逃亡魚の発生ゼロ | 逃亡実績(逃亡魚が発生した際は、発生規模を問わず、全て把握、記帳、集計) |
(注1)ODP:Ocean Disclosure Project。SFP(Sustainable Fisheries Partnership)が2015 年に設立した、シーフードの調達を自主的に開示するためのオンライン報告プラットフォーム。
(注2)GSSI:Global Sustainable Seafood Initiative。持続可能な水産物認証プログラムを検証する国際パートナーシップ。
(注3)RFMO:Regional fisheries management organizations。水産資源の保存及び持続可能な利用の実現を目指し、個別の条約に基づいて設置される国際機関。