Environment 環境

TCFD提言への取り組み

TCFD提言に基づく情報開示

自然の恵みを享受し事業を営むニッスイグループでは、資源を大切にし、地球や海に感謝の心を持って接することを企業姿勢の基本としています。また、地球環境の保全は事業継続のためにも必要不可欠です。気候変動対応は重要な経営課題と認識し、2021年11月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同を表明し、TCFDコンソーシアムに参加しました。気候変動に係るリスクおよび機会を特定し、シナリオ分析を通じて事業インパクトと財務影響を評価し、対応策を講じることで、事業の持続性向上を図ります。
また、TCFD提言で推奨される「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの開示項目に沿って情報を開示していきます。

外部イニシアティブへの参加​

ガバナンス

ニッスイグループでは、持続的な成長と企業価値向上の実現に向けてサステナビリティ経営を進めており、その推進組織として、全執行役員と社外取締役で構成され、社長執行役員(CEO)を委員長とするサステナビリティ委員会を設置しています。
サステナビリティを巡る各課題については、サステナビリティ委員会傘下のテーマ別の8つの部会において、委員長が指名した部会長(執行役員)と、部会長により任命されたメンバーで部門横断的に対応を行っています。また、年6回開催されるサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しており、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。
気候変動問題については、常務執行役員(CFO)がプロジェクトオーナーを務める部門横断型プロジェクト「TCFD対応プロジェクト」を2021年度に立ち上げ、リスク・機会の分析と対応策の検討を行っています。検討結果はサステナビリティ委員会での審議を経て取締役会に報告し、取締役会からの意見や助言を反映しています。TCFD対応プロジェクトは2022年度に5回開催しました。
また、CO2排出量削減などの気候変動緩和策については、サステナビリティ委員会傘下の環境部会がグループ全体の取り組みを推進しています。
また2030年ビジョン、経営計画達成に向けて役員報酬体系を2022年度より改定し、業務執行取締役の変動報酬部分の評価指標に、水産物の持続可能性や自社グループ拠点のCO2排出量削減等の非財務(サステナビリティ)目標の達成度を加えています。

【図版】気候変動に関わるサステナビリティ推進体制
サステナビリティ委員会
  • 委員長:代表取締役社長執行役員(CEO)
  • メンバー:全執行役員、社外取締役
  • 事務局:サステナビリティ推進部
  • 報告先:取締役会
  • 開催頻度:年6回

気候変動対応を含むサステナビリティ関連の方針・ 計画の策定、重要事項の決定

TCFD対応プロジェクト
  • PJオーナー:常務執行役員(CFO)
  • PJリーダー: 常務執行役員(サステナビリティ推進部管掌)
  • メンバー:関連部署代表者(原料開発部、食品生産推進部、水産事業第三部、FC事業部、海外事業推進部、経営企画IR部、経理部、総務部)
  • 事務局: サステナビリティ推進部
  • 開催頻度:5回開催(2022年度実績)

リスクおよび機会の特定、シナリオ分析を通じた事業インパクトと財務影響の評価

環境部会
  • 部会長:常務執行役員(サステナビリティ推進部管掌)
  • メンバー:常務執行役員(CFO)、執行役員(コンビニエンス事業部管掌)、FC総合工場、食品生産推進部、八王子総合工場、コンビニエンス事業部、水産事業第二部、水産事業第四部、養殖事業推進部、SCM部、総務部、技術開発部
  • 事務局:サステナビリティ推進部
  • 開催頻度:年6回開催(2022年度実績)

CO2排出量削減を含む環境負荷低減の取り組み推進

戦略

2021年度は水産事業と食品事業を対象とし、2022年度はファインケミカル事業を対象に加え、TCFD提言に基づく気候変動のシナリオ分析を2つのシナリオで実施しました。気候変動リスクと機会の特定、財務インパクトの評価を行い、その対応策を検討しました。明確化された重要なリスクと機会に対して、対応策を講じることで、リスクの低減と機会の確実な獲得につなげ、気候変動に対してレジリエントな状態を目指します。

戦略におけるシナリオ分析の概要

リスク管理

事業活動の妨げとなるリスクを未然に防止し、損失発生を最小限に抑え、経営資源の保全と事業の継続に最善を尽くすため、リスクマネジメント規程を制定し、社長執行役員(CEO)が委員長を務めるリスクマネジメント委員会がリスクマネジメントシステムの構築と運用、定期的な取締役会への報告を行っています。気候変動(世界的な気温上昇)による影響を含む事業上の重要リスクは、取締役会で毎年審議し、更新しています。

リスクマネジメント
事業等のリスク

指標と目標

ニッスイグループは長期ビジョン「Good Foods 2030」において、2018年度比で、2030年にCO2排出量を総量で30%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを掲げています。グループグローバルでの目標達成に向け、各事業所における省エネ施策の実施やエネルギー使用量の少ない高効率設備への更新、再生可能エネルギーの使用など、CO2削減計画を策定し、積極的に取り組んでいきます。スコープ3についてはGHGプロトコルに整合した環境省のガイドラインに従い、15のカテゴリーに分け算定しました。今後はデータの精度向上を図り、排出量の多いカテゴリー1の削減方法の検討などを行い、ニッスイグループにおけるCO2排出量の削減をさらに推進します。
また、調達する天然水産物、プラスチック、フードロス、水などについても、持続可能な利用を実現するための目標と施策をそれぞれ掲げ、取り組みを推進していきます。

CO2排出量(Scope 1、2)

実績
目標と実績
環境負荷低減の取り組み

削減目標(2018年度対比・総量)
CO2排出量を2024年までに10%、2030年までに30%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを目指します。

持続可能な利用を実現するための目標と施策

長期ビジョン
目標と実績
環境負荷低減の取り組み
ESGデータ(Scope 3)

system, 株式会社ニッスイ サステナビリティ推進部, 外部協力者, 株式会社ニッスイ コーポレートコミュニケーション部, 株式会社ニッスイ 人事部人事課

戦略におけるシナリオ分析の概要

ニッスイグループではTCFDの提言に従い、気候変動シナリオ分析を実施しました。分析対象は水産事業と食品事業に2022年度はFC事業を加え、バリューチェーン全体を幅広く分析しました。1.5℃/2℃および4℃の気温上昇時の世界を想定し、リスク・機会の抽出と2030年における財務インパクトの評価、および対応策を検討しました。

その結果、1.5℃/2℃シナリオでは炭素税の導入による操業コストが事業成長の阻害要因となり、積極的なGHG削減とともに生産活動の効率化に取り組み、新たな顧客需要を捉えることにより、事業成長につなげることが可能であることがわかりました。また、4℃シナリオでは自然災害の激甚化に伴う物理リスクが事業成長の阻害要因となり、養殖事業の高度化に取り組みこれらのリスクに対応することで収益への影響を最小化することが必要であることがわかりました。

シナリオの世界観の定義

シナリオ分析では国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によるRCP2.6(2℃未満シナリオ)、RCP8.5(4℃シナリオ)、国際エネルギー機関(IEA)によるシナリオを参照し、2つのシナリオの世界観を定義しました。

シナリオ 世界観の描写
1.5℃/2℃
シナリオ
(RCP2.6)
  • 社会からの脱炭素への要求により、コーポレートやバリューチェーン全体に対して、脱炭素に向けた規制や対応要請が強まる
  • 社会からの脱炭素への要求により、脱炭素な過程で生産された原材料の仕入れや持続可能な漁業・養殖が必要になる
  • 消費者や小売業者の志向変化により、低カーボンな製造・製品や持続性に配慮した調達品の取引や販売が求められる
4℃
シナリオ
(RCP8.5)
  • 自然災害の激甚化に伴い、養殖・製造・物流等拠点の被災リスクが高まり、被災した場合、供給・運営停止などのリスクが高まる
  • 自然災害の激甚化や気温上昇により、植生や海洋環境が変化することで、作物の収量や水産資源の漁獲量・生産量の減少リスクが高まる
  • 自然災害が頻発することで災害食に対する需要の増加や、気温変化により健康状態が悪化することで健康ニーズを満たす製品要望が高まる

1.5℃/2℃シナリオ

リスク
/機会
分類 想定される
主なリスクと機会
事業インパクト 影響
時期
財務インパクト 主な対応策
移行
リスク
規制 環境関連規制強化による影響 カーボンプライシングの導入による対応コストの増加

省エネ・GHG排出等の規制強化による対応コストの増加
中期
  • 事業所毎の排出量削減目標の設定
  • 再エネ導入拡大、省エネ設備投資
  • 容器包装プラスチック削減
  • モーダルシフト、輸送効率化
  • フードロス削減 
  • ICP(注1)導入の検討
フロン規制強化による脱フロン要請の高まり 中期
  • 自然冷媒への切り替え
評判 気候変動対応が不十分な場合の投資家・金融機関からの評判低下 中期
  • Scope 3まで含めたCO2削減目標の設定
  • 気候変動対応情報の積極開示
機会 製品と
サービス
消費者の購買行動の変化
(環境意識の高まり、持続可能性への配慮)
持続可能性に配慮した製品に対する需要増加 短期
  • 取り扱い水産物の資源状態調査の継続実施
  • 環境配慮商品や認証品の取り扱い拡大
低カーボン需要の高まりによる代替タンパクへの需要増加 中期
  • 代替タンパク商品の開発、拡大
低カーボンとしての水産物の需要増加 長期
  • LCA(注2)の実施と積極的な情報発信
資源の効率性

省エネ技術導入、再エネ・燃料転換による操業コスト低減

エネルギーの消費量削減、効率化に伴う操業コストの低減

中期
  • エネルギー高効率な省エネ設備対応

影響時期は、短期(3年以内)、中期(3-10年以内)、長期(10-20年程度)とした。
(注1)ICP:インターナルカーボンプライシング。
(注2)LCA:ライフサイクルアセスメント。

4℃シナリオ

リスク
/機会
分類 想定される
主なリスクと機会
事業インパクト 影響
時期
財務インパクト 主な対応策
物理
リスク
急性 風水害の激甚化による事業停止リスク/管理コスト増加 製造/物流拠点被災による被害 中期
  • 拠点の分散によるリスクヘッジ
  • 物理的被害に備える保険内容の見直し
  • BCP見直し、社内訓練の実施
養殖施設の損壊による被害 短期
  • 浮沈式生け簀の導入、施設の補強
  • 赤潮発生を予測し、被害を最小化
  • 陸上養殖への対応強化
異常気象による原材料(米・鶏肉)の調達リスク 原材料調達コストの増加 短期
  • 産地の分散化や調達先の多様化によるリスク低減
異常気象による原材料(水産物)の調達リスク 漁獲量減少と調達コストの増加 長期
  • EPA原料魚油(カタクチイワシ)の在庫確保
  • 代替原料(ポストEPA)の開発
急性・慢性 渇水による操業停止リスク 養殖拠点の渇水被害 短期
  • 高リスク拠点の特定、移転、設備強化
製造/物流拠点の渇水被害 短期
  • 使用水の節約、井水の使用
  • 拠点の分散によるリスクヘッジ
慢性 海洋環境の変化による水産物の調達リスク 天然魚、養殖魚の漁獲量の減少 中期
  • 調達ネットワークの構築
  • 陸上養殖の対応強化
  • 高温耐性品種の開発、養殖適地の探索
養殖飼料向け原料魚の漁獲量減少・調達コスト増加 中期
  • 代替飼料の開発(低魚粉配合飼料)
機会 製品と
サービス
災害や気候変動に対応する製品・サービスを通じた需要増加 天然資源減少に伴う養殖需要の増加 短期
  • 陸上養殖の対応強化
  • 高温耐性品種の開発、養殖適地の探索
スマート養殖対応によるコスト低減 短期
  • AI、IoTを活用した効率化、省人化
気温上昇に伴う健康意識の高まり 健康需要を満たす製品の需要増加 短期
  • 健康領域商品の販売拡大
  • 水産物の機能性追求

影響時期は、短期(3年以内)、中期(3-10年以内)、長期(10-20年程度)とした。

カーボンプライシングの影響

財務インパクトの中でも特に影響が大きかったカーボンプライシングについては、次の算出根拠に基づき試算を行いました。
将来CO2排出量(Scope 1、2)を2030年売り上げ予測に基づいて算出し、2℃シナリオ、4℃シナリオごとのIEAの予測による炭素価格(注1)を掛け合わせて運営コストの影響金額を算出しました。2030年目標であるCO2排出量を総量で30%削減することにより、グループ全体で2℃シナリオでは44.1億円、4℃シナリオでは17.6億円の削減につながることがわかりました。

2℃シナリオ 4℃シナリオ
対応策なし(注2) 対応策あり(注3) 対応策なし(注2) 対応策あり(注3)
▲83.8億円 ▲39.7億円 ▲33.5億円 ▲15.9億円

炭素税:2℃シナリオ時 135ドル/t‐CO2、4℃シナリオ時 54ドル/t‐CO2と仮定、為替レートはいずれのシナリオも1ドル=118円と仮定

(注1)IEA World Energy Outlook 2022 参照。
(注2)対応策なし:Scope 1、2を対象とし、基準年度である2018年度と同様の原単位でCO2が排出されると仮定。
(注3)対応策あり:Scope 1、2を対象とし、2030年目標を達成することでCO2排出量が2018年度から30%削減されると仮定。

天然水産資源(カタクチイワシ・スケソウダラ)の影響評価

2022年度は、調達量が多く重要な魚種であるカタクチイワシとスケソウダラについて、FAO(国連食糧農業機関)のモデルを使用して2種類のシナリオで2030年、2050年の漁獲可能量の変化を評価しました。その結果、1.5℃シナリオでは両魚種ともに微減が予想されました。4℃シナリオでは、カタクチイワシは2030年、2050年ともに減少となり、スケソウダラは2030年は微増、2050年は増加が予想されました。2030年時点での漁獲可能量の変化率は大きくないため、財務への影響は軽微であることが確認されました。しかし、2050年の漁獲可能量の変化率は比較的大きいため、特に減少が予想されるカタクチイワシについては、対応策を確実に進めていく必要があります。

漁獲可能量の変化率(注)

魚種 漁獲エリア 1.5℃/2℃ 4℃
2030年 2050年 2030年 2050年
カタクチイワシ ペルー
スケソウダラ アラスカ

5%未満減少➘、5~25%未満減少↓、25%超減少↓↓
5%未満増加➚、5~25%未満増加↑、25%超増加↑↑

(注)FAO「Impacts of climate change on fisheries and aquaculture(2018)」を参考に当社推計

水リスクの評価

水リスク評価のグローバルスタンダードのうち、2021年度は世界自然保護基金(WWF)のWater Risk Filterを用いて国内の製造・物流拠点全体の評価を行いましたが、Water Risk Filterに比べ分析粒度が細かくより精緻なデータ収集が可能である点、水リスク評価の際に拠点別の影響額を試算するための浸水深のデータが必要であるため、2022年度は世界資源研究所(WRI)のAqueduct(アキダクト)を用いて、国内・海外の生産・物流拠点別に評価を行いました。水害による生産中断による機会損失については、各拠点の所在地に示されるAqueductの浸水深により拠点別に運転停止日数・在庫毀損率を特定し、財務影響金額を算定しました。その結果、財務へ影響は中程度であることを確認しました。また、水ストレス(渇水)については、最も高いリスクレベルに該当する拠点はありませんでしたが、日本、タイ、北米、南米の生産拠点の一部が、水ストレス下にある地域に所在していることがわかりました。今後は継続的に使用水の削減に取り組むとともに、水リスク評価方法の精緻化についても検討を進めていきます。

Aqueductによる洪水リスク評価結果(拠点数)

浸水幅 1.5/2℃ 4℃
河川 沿岸 河川 沿岸
0m 51 50 51 50
0-0.5m 7 8 10 10
0.5-1m 9 7 6 5
1-2m 0 2 0 2

67 67 67 67

Aqueductによる渇水リスク評価結果(拠点数/水使用量)

渇水レベル 1.5℃/2℃ 4℃
拠点数 2022年度
水使用量(千㎥)
拠点数 2022年度
水使用量(千㎥)
低(Low) 25 1,068 26 1,113
低‐中(Low-medium) 19 1,959 18 1,913
中‐高(Medium-high) 17 5,860 16 5,675
高(High) 6 563 7 748
極めて高い(Extremely high) 0 0 0 0
  67 9,450 67 9,450

戦略への反映

シナリオ分析の結果を受けて、中期経営計画「Good Foods Recipe1」では、優先度の高い対応策から事業計画に反映し、戦略との整合を図っています。

基本戦略 項目 内容
サステナビリティ経営の進化 GHG排出削減
  • 燃料転換、再生可能エネルギーの活用、省エネ推進、モーダルシフト推進
  • 特定フロンから自然冷媒への移行
  • 代替タンパク商品の販売拡大
プラスチック削減
  • 養殖フロートの全量切り替え
  • 容器包装のプラスチック削減、バイオマス切り替え等
  • 物流資材のプラ削減、リサイクル推進
  • 事業活動に伴う廃プラスチックの排出抑制
水産資源の持続的な利用
  • 水産資源の持続可能性調査
  • 各種水産エコラベル認証取得率向上と認証原料の取り扱い拡大
健康訴求の強化
  • 健康領域商品の拡大
  • 素材の機能性追求
グローバル展開加速 欧米を中心とした事業成長
  • 資源アクセス力の強化
新規事業・事業境界領域の開拓 新規事業
  • 健康領域商品の拡大
  • 代替タンパク商品の拡大
既存事業の強化
  • 陸上養殖の事業化
生産性の革新 重点成長領域での差別化
  • 養殖事業モデルの先鋭化
  • スマートファクトリー化

中期経営計画「Good Foods Recipe1」
system, 株式会社ニッスイ サステナビリティ推進部, 外部協力者, 株式会社ニッスイ コーポレートコミュニケーション部, 株式会社ニッスイ 人事部人事課